夕方には主さまは百鬼夜行に出るので、夜は居ない。
だから今のうちに少しだけ寝ておこう、と思って夕方少しだけ昼寝をした息吹は、外から雀の鳴き声が聞こえるまで寝入ってしまい、慌てて飛び起きた。
「やだ、寝ちゃった!父様、父様ー!」
「なんだい朝から騒々しいねえ。すやすや眠っていたから起こさずにおいたよ」
きっちり身支度を整えている晴明とは打って変わって息吹の頭はまだぼさぼさ。
すぐさま台所に行って盥に張った水で顔を洗い、晴明は腕を組んで襖に寄りかかりながら息吹がちょこまか動いて身支度を整えているのを見ながらふっと笑った。
「十六夜はもう屋敷に帰ってきているはず。また明日にするかい?」
「うーん…お着物とかは主さまとの部屋にあるし…。今日は地主神様にお会いするだけにしておきます。父様は主さまとお話するでしょ?」
「ふふふ、そうだねえ。まあ十六夜は私に任せておきなさい」
もしかしたら主さまと顔を合わせることになるかもしれない――
そう思うと鏡台の前に座って念入りに化粧をしてしまった息吹は、また晴明に笑われながら無人の牛車に乗って晴明に寄りかかった。
「文は読んだのかい?」
「…うん…読んだけど……でも私まだ…」
「十六夜を困らせてやるといい。あれは普段から何でもできる立場にあるからねえ、そなた位しか十六夜を困らせることはできぬよ」
「嘘、父様だっていつも主さまを困らせてるでしょ」
緊張を和らげてくれた晴明と笑っているうちに幽玄橋に差し掛かり、牛車1度赤鬼と青鬼の前に止まった。
「おお息吹!心配したぞ!戻って来てくれたんだな?」
「ちょっとだけね。でもまだ主さまとは夫婦喧嘩中だから」
「そうか。早く戻って来てもらわないと困る。主さまが怖くてなあ」
指先で御簾をつまんでいた赤鬼がため息をつき、息吹に手を振った。
息吹も手を振り返すと御簾が下がり、再び牛車が動き出す。
「主さま…荒れてるのかなあ」
「自業自得だな。そなたが気に病むことはない」
主さまにはかなり厳しい晴明がつんとした声で言い放ち、最奥にある主さまの屋敷に着くと、遠くから雪男の声が近付いて来た。
「息吹!息吹!!良かった、戻って来てくれる気になったんだな!?」
「雪ちゃ……」
「残念だがそれは違う。息吹は地主神様のお参りに来ただけだ」
そんな会話を部屋で聞いていた主さま、むかっ。
だから今のうちに少しだけ寝ておこう、と思って夕方少しだけ昼寝をした息吹は、外から雀の鳴き声が聞こえるまで寝入ってしまい、慌てて飛び起きた。
「やだ、寝ちゃった!父様、父様ー!」
「なんだい朝から騒々しいねえ。すやすや眠っていたから起こさずにおいたよ」
きっちり身支度を整えている晴明とは打って変わって息吹の頭はまだぼさぼさ。
すぐさま台所に行って盥に張った水で顔を洗い、晴明は腕を組んで襖に寄りかかりながら息吹がちょこまか動いて身支度を整えているのを見ながらふっと笑った。
「十六夜はもう屋敷に帰ってきているはず。また明日にするかい?」
「うーん…お着物とかは主さまとの部屋にあるし…。今日は地主神様にお会いするだけにしておきます。父様は主さまとお話するでしょ?」
「ふふふ、そうだねえ。まあ十六夜は私に任せておきなさい」
もしかしたら主さまと顔を合わせることになるかもしれない――
そう思うと鏡台の前に座って念入りに化粧をしてしまった息吹は、また晴明に笑われながら無人の牛車に乗って晴明に寄りかかった。
「文は読んだのかい?」
「…うん…読んだけど……でも私まだ…」
「十六夜を困らせてやるといい。あれは普段から何でもできる立場にあるからねえ、そなた位しか十六夜を困らせることはできぬよ」
「嘘、父様だっていつも主さまを困らせてるでしょ」
緊張を和らげてくれた晴明と笑っているうちに幽玄橋に差し掛かり、牛車1度赤鬼と青鬼の前に止まった。
「おお息吹!心配したぞ!戻って来てくれたんだな?」
「ちょっとだけね。でもまだ主さまとは夫婦喧嘩中だから」
「そうか。早く戻って来てもらわないと困る。主さまが怖くてなあ」
指先で御簾をつまんでいた赤鬼がため息をつき、息吹に手を振った。
息吹も手を振り返すと御簾が下がり、再び牛車が動き出す。
「主さま…荒れてるのかなあ」
「自業自得だな。そなたが気に病むことはない」
主さまにはかなり厳しい晴明がつんとした声で言い放ち、最奥にある主さまの屋敷に着くと、遠くから雪男の声が近付いて来た。
「息吹!息吹!!良かった、戻って来てくれる気になったんだな!?」
「雪ちゃ……」
「残念だがそれは違う。息吹は地主神様のお参りに来ただけだ」
そんな会話を部屋で聞いていた主さま、むかっ。

