主さまが文を――
出会ってから1度も主さまから文を貰ったことのない息吹は、机の上に置いてある文の前に正座をしてじっと見つめていた。
…有り得ないことだ。
恋文を書いてと我が儘を言った時も散々嫌がっていたのに――
「この椿…主さまがつけたのかな…」
口下手なのに意外に器用な主さま。
一緒に掃除を手伝ってもらった時もてきぱきとしていて驚いたことがあるが…一体この文には何が書かれているのか。
「…見て…見ようかな…」
文を手に取り、椿と帯を外して恐る恐る内容に目を通した。
まずは主さまの流れるような美しい字。
達筆すぎるほど達筆で、その字を見ただけでときめいてしまった息吹は文を胸に押しあてて大きく深呼吸をした。
そして再び文に目を落として――笑った。
『帰って来てくれ。お前の居ない生活に耐えられない』
――たったこれだけ。
だがきっと主さまのことだからうんうん悩みながら綴ったものなのだろう。
「…主さま…」
だが心の整理がつかない。
胡蝶の件が解決したとしても、今後また主さまの情事の相手だった女が現れたら?
また頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたら…耐えられるだろうか?
「…1度様子を見に帰ろうかな。地主神様にもあれからお会いできてないし…」
言い訳をしてまた帯で文を留めると引き出しに入れて腰を上げた。
そのまま晴明の仕事部屋まで行くと、床には相変わらず巻物が散乱してため息を漏らす。
「父様…こんなんじゃ母様に怒られちゃうよ?」
「山姫とはそなたが戻って来て以来会っておらぬ。どうしたんだい?」
「明日陽が暮れたら…1度幽玄町に戻ってもいいですか?その…父様だって母様に会いたいでしょ?一緒に行きませんか?」
巻物に目を通していた晴明が顔を上げると、何故か焦った息吹は飛び跳ねるようにして正座をして言い訳。
「ほ、ほら、お着物とかお化粧道具とか置いて来ちゃったしっ。地主神様のお供え物も替えに行かなくちゃいけないしっ」
焦りまくる息吹の顔はほんのり赤くなり、主さまの文が功を奏したのだとすぐにわかった晴明は、お茶を啜りながら頷いた。
「いいとも。だがその口ぶりではまたここに戻って来るんだね?」
「…はい。もうちょっと時間が…」
「いつまでも居るといい。私としては大歓迎だからねえ」
主さまいじめ、再燃。
出会ってから1度も主さまから文を貰ったことのない息吹は、机の上に置いてある文の前に正座をしてじっと見つめていた。
…有り得ないことだ。
恋文を書いてと我が儘を言った時も散々嫌がっていたのに――
「この椿…主さまがつけたのかな…」
口下手なのに意外に器用な主さま。
一緒に掃除を手伝ってもらった時もてきぱきとしていて驚いたことがあるが…一体この文には何が書かれているのか。
「…見て…見ようかな…」
文を手に取り、椿と帯を外して恐る恐る内容に目を通した。
まずは主さまの流れるような美しい字。
達筆すぎるほど達筆で、その字を見ただけでときめいてしまった息吹は文を胸に押しあてて大きく深呼吸をした。
そして再び文に目を落として――笑った。
『帰って来てくれ。お前の居ない生活に耐えられない』
――たったこれだけ。
だがきっと主さまのことだからうんうん悩みながら綴ったものなのだろう。
「…主さま…」
だが心の整理がつかない。
胡蝶の件が解決したとしても、今後また主さまの情事の相手だった女が現れたら?
また頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたら…耐えられるだろうか?
「…1度様子を見に帰ろうかな。地主神様にもあれからお会いできてないし…」
言い訳をしてまた帯で文を留めると引き出しに入れて腰を上げた。
そのまま晴明の仕事部屋まで行くと、床には相変わらず巻物が散乱してため息を漏らす。
「父様…こんなんじゃ母様に怒られちゃうよ?」
「山姫とはそなたが戻って来て以来会っておらぬ。どうしたんだい?」
「明日陽が暮れたら…1度幽玄町に戻ってもいいですか?その…父様だって母様に会いたいでしょ?一緒に行きませんか?」
巻物に目を通していた晴明が顔を上げると、何故か焦った息吹は飛び跳ねるようにして正座をして言い訳。
「ほ、ほら、お着物とかお化粧道具とか置いて来ちゃったしっ。地主神様のお供え物も替えに行かなくちゃいけないしっ」
焦りまくる息吹の顔はほんのり赤くなり、主さまの文が功を奏したのだとすぐにわかった晴明は、お茶を啜りながら頷いた。
「いいとも。だがその口ぶりではまたここに戻って来るんだね?」
「…はい。もうちょっと時間が…」
「いつまでも居るといい。私としては大歓迎だからねえ」
主さまいじめ、再燃。

