「…息吹はどうしている」
「ここでお前と胡蝶の情事を見た後裸足で幽玄橋まで駆けたのが原因で脚の傷口から雑菌が侵入したらしい。前日まで高熱にうなされて寝込んでいた」
主さまの顔色が変わる。
あの後息吹を追いかけることができなかったのは、胡蝶への激高が治まらず、胡蝶本人に手は出さずとも殺気だけで昏倒させたからだ。
そしてなんとか屋敷まで行ったはいいものの晴明からの門前払い――
「…目覚めたのか?」
「ああ、徐々に体調は良くなっているようだが。だが十六夜…晴明がな、恐ろしく怒っている。静かではあったが、あれはしばらく近付かない方がいいな」
「…あいつは息吹を溺愛しているからな。銀…どうすれば誤解だとわかってもらえるんだ?あいつは…胡蝶は…」
言いにくそうに口を開けたり閉めたりしている主さまの代わりに銀が口を開いた。
「胡蝶は姉なのに、か?」
「…腹違いの姉だ。あれは百鬼夜行の主として認められず、親父の正式な妻である母から生まれた俺に再三嫌がらせをしてきた。あんな女、抱いたりするものか」
「幼い頃は共に育ったとか。それをいいように息吹に話して誤解させた、というところか。ふむ…はた迷惑な女だな」
百鬼を総べる者は一夫多妻制が認められている。
父の潭月には母の他に女が居たが、その間に生まれた胡蝶は大した力を持って生まれてこなかった。
よって恨みつらみを母親から吹き込まれて育ち、その感情は弟であり父の跡目を継ぐ自分にまっすぐ向けられた。
「今すぐ誤解を解きたいんだ。だが…晴明が…」
「晴明よりも、息吹がお前に会いたいと思わなければ会わせないという趣旨のことを言っていたぞ。ちなみに俺も門前払いを食らった。立ち話からなんとか聞き出したんだぞ、感謝しろ」
主さまは机の上に置いてあった紙と筆に目を遣った。
…あれから何度も息吹に文を書こうとしては思いとどまり、それの繰り返し。
今こそ恋文を書かなければいけない時だとわかっているのに。
「…焦がれて…死んでしまう…」
ぼそりと呟いた主さまの肩を抱いた銀は、手を振り払えないほどに弱った主さまの頭をぽんぽんと叩いた。
「頑張れ。取り戻したいならば、行動すべきだ」
「ここでお前と胡蝶の情事を見た後裸足で幽玄橋まで駆けたのが原因で脚の傷口から雑菌が侵入したらしい。前日まで高熱にうなされて寝込んでいた」
主さまの顔色が変わる。
あの後息吹を追いかけることができなかったのは、胡蝶への激高が治まらず、胡蝶本人に手は出さずとも殺気だけで昏倒させたからだ。
そしてなんとか屋敷まで行ったはいいものの晴明からの門前払い――
「…目覚めたのか?」
「ああ、徐々に体調は良くなっているようだが。だが十六夜…晴明がな、恐ろしく怒っている。静かではあったが、あれはしばらく近付かない方がいいな」
「…あいつは息吹を溺愛しているからな。銀…どうすれば誤解だとわかってもらえるんだ?あいつは…胡蝶は…」
言いにくそうに口を開けたり閉めたりしている主さまの代わりに銀が口を開いた。
「胡蝶は姉なのに、か?」
「…腹違いの姉だ。あれは百鬼夜行の主として認められず、親父の正式な妻である母から生まれた俺に再三嫌がらせをしてきた。あんな女、抱いたりするものか」
「幼い頃は共に育ったとか。それをいいように息吹に話して誤解させた、というところか。ふむ…はた迷惑な女だな」
百鬼を総べる者は一夫多妻制が認められている。
父の潭月には母の他に女が居たが、その間に生まれた胡蝶は大した力を持って生まれてこなかった。
よって恨みつらみを母親から吹き込まれて育ち、その感情は弟であり父の跡目を継ぐ自分にまっすぐ向けられた。
「今すぐ誤解を解きたいんだ。だが…晴明が…」
「晴明よりも、息吹がお前に会いたいと思わなければ会わせないという趣旨のことを言っていたぞ。ちなみに俺も門前払いを食らった。立ち話からなんとか聞き出したんだぞ、感謝しろ」
主さまは机の上に置いてあった紙と筆に目を遣った。
…あれから何度も息吹に文を書こうとしては思いとどまり、それの繰り返し。
今こそ恋文を書かなければいけない時だとわかっているのに。
「…焦がれて…死んでしまう…」
ぼそりと呟いた主さまの肩を抱いた銀は、手を振り払えないほどに弱った主さまの頭をぽんぽんと叩いた。
「頑張れ。取り戻したいならば、行動すべきだ」

