主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

さすがに料理を作るまでは体調は回復しておらず、式神たちに夕餉とお酒を用意してもらった息吹は晴明の隣に座り、それを道長たちが取り囲むようにして座っていた。


「道長様と相模とは空海さんの一件からまともにお会いできてなかったからずっと気になってたんです」


「俺の性根が弱かったために空海につけ込まれてしまった。そなたには本当に悪かったと思っている」


「あの後死んじゃったと思ってた雪ちゃんは父様が術をかけてくれたせいで元通りになったし、私は主………みんなが助けてくれたから平気でした」


主さま、と呼びかけて言いよどんだ息吹に皆が気付いていたが、今は息吹の頭から主さまを払しょくすべき時。

それに息吹を肴にどんどん酒が進み、たしなむ程度に飲んでいた相模は大胆にも息吹にすり寄って手を握り、道長と義経を悔しがらせていた。


「俺は今朝廷の行事や人の名前を憶えてるとこ。お父様や道長たちが毎日勉強に付き合ってくれてるんだ。朝廷もだいぶ元通りになってきたよ」


「大変そうだね…。一条天皇や萌さんは元気?わあ、聞きたいことが沢山ありすぎてなんか頭がぐるぐるしちゃう」


嬉しそうに頬を上気させて晴明を見上げて笑っている息吹が愛らしく、息吹が小さかった頃からよく知っている道長は息吹の肩に手を置いて、以前より細くなった感触に胸を痛めた。


「ゆっくりするんだ。俺たちもまた明日来る。そなたが元気にならないと俺も元気が出ない」


「うん、道長様ありがとうございます。…その…義経さんも…」


それまでほとんど黙り込んだまま息吹に見惚れていた義経は、慌てて首を振って酒を飲み干した。


「私はあなたを困らせてばかりで…。ですがもうお会いできないと思っていたので本当に嬉しい。その…私もまた会いに来てもいいでしょうか」


「はい、もちろん。相模もまた来てね。しばらくはここでゆっくりするのでいつでも来て下さい」


いつでも来ていい、とお墨付きをもらった3人はほっとして息吹の体調を気遣い、早めに岐路に着く。

するとほっとした息吹はくてんとなって晴明に寄りかかり、晴明は息吹の肩を抱いて好きなようにさせた。


「そなたが憂いていた者が全て揃ったな。どうだい、そなたに元気を与えてくれたかい?」


「はいっ。私最近ずっと…何も考えないように頑張ってたから…。父様ありがとう」


親子水入らず。

日常が戻って来た、と思った。