主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

主さまの話題は厳禁――

元々からして息吹を好いている3人は主さまを話題にするつもりはなく、苦い薬湯を飲まされて顔をしかめている息吹を取り囲んでそわそわしている彼らの姿に晴明が頬を緩める。


「相模…忙しいのに会いに来てくれてありがとう。あ、もう敬語使わなくちゃいけないのかな」


「ううん、そんなの必要ないし。なんか毎日勉強させられて頭が爆発しそうだったからさ、こうして会えて嬉しい」


少しだけ男らしくなった相模がにっこり笑ってくれたので、嬉しくなった息吹は羽織を肩にかけながら床から出ようとして皆に止められた。


「まだ動かぬ方が…」


「でもこれ以上寝てたら脚が萎えて本当に病気になっちゃいそうだから、お茶位淹れさせて下さい」


「では私が付き添おう。そなたたちはそわそわしながら待っていてくれ」


主さまの介入なしにゆっくり息吹と話せる機会を持ててそわそわが止まらない3人組につい肩を揺らして笑ってしまった晴明は、息吹に腕を貸しながら台所へ向かう。

足元は頼りなかったがちゃんと歩けていることにもほっとしていると、息吹が見上げてきた。


「私…帰って来てもいいと思う?」


「それは十六夜と離縁するということなのかな?」


「……」


黙ってしまった息吹の頭を撫でて釜戸に火を入れた晴明は、揺らぐ炎を見つめながら訥々と息吹に語りかけた。


「十六夜の意志ではなくかつて遊び相手だった女が押しかけて来たと主張していた。離縁をするつもりならば1度十六夜と話をしなければならないよ。いいね?」


「…はい。でもまだ気持ちの整理がつかないから…」


「いつまでも居るといい。そなたが十六夜と会う決心がつくまでは父様と2人で昔のように暮らそう」


ようやく顔色が戻って来た息吹がにこっと笑った。

そして戸棚から茶葉を出しててきぱきと湯呑に茶を注ぐと、話を聞いてもらったことで少しすっきりしたのか先程よりもしっかりとした足取りで部屋に戻った。


「なんかほっとしちゃった。今日までゆっくりして明日からはちゃんとします。今日はみんな遅くまで居られるの?」


一斉に頷いた3人は、息吹の可憐な笑顔にぽうっとして次々に我先にと口を開いてまた晴明を笑わせる。


「こらこら、息吹を疲れさせぬよう」


今宵の酒は美味いだろう。

何せ、娘が元気を取り戻したのだから。