主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

3通の文を出した後、それを受け取った者たちはほぼ同時に晴明の屋敷に駆け込んできた。


「晴明!息吹が戻って来ただと…!?」


「晴明殿!息吹姫がご病気だと文に書いてあったのは誠ですか!?」


「息吹に会いに来た!晴明様、会わせて下さい!」


「まあまあ落ち着きなさい。息吹は先程起きたのだが…まだ長い間話すことは適わぬ。顔だけ見せてやってほしい」


息を切らしながら頷いた道長、義経、相模は庭から部屋に上り込んで息吹の部屋に案内された。

特に相模と道長は久しぶりに息吹に会える喜びも感じていたのだが…病に臥せっているという息吹の容態を心配して気が気ではない。


「主さまの話はせぬよう。息吹が話せるようならば日常の会話で和ませてやっておくれ」


「わかった。晴明…あの百鬼夜行の主が何か仕出かしたのだな?」


道長に追及されたがそれには答えずに息吹の部屋の前に着くと、まずは少しだけ襖を開けて息吹に来客が来たことを教える。


「そなたに会いたいといって騒いでいる連中が居るのだが…いいかい?」


「……平安町の人?それとも…」


「平安町の者だよ。きっとそなたも喜んでくれると思う」


にこ、と小さく笑った息吹が頷くと、晴明は襖を開けて彼らと息吹を対面させた。



「え…道長様と義経さんと……相模?」


「息吹!朝廷で騒ぎがあったぶり!元気だったかっ?…なんか…痩せた?」


すぐさま駆け寄って息吹の手を握った幼き帝を守護しながらここまでやって来た道長と義経は先制攻撃を食らって苦笑しながら中へと入る。


…確かに息吹は痩せた。

妖などに嫁いで苦労した末で痩せたのだろうか、それとも病のせいか…

元々線の細かった娘なのにさらにやつれて見えて居たたまれなくなった道長と義経は、相模の両隣に座って息吹に笑いかける。


「息吹…久しぶりだな。幽玄橋までは何度か行ってみたんだが…」


「道長様…お会いできて嬉しいです。ふふ、お元気そうで良かった」


「元気だとも。だがそなたのやつれている姿を見て正直戸惑っている。何の病だ?何故平安町に戻ってきている?」


「詮索は止してもらおうか。息吹は静養に来ているのだから、ゆっくりさせてやっておくれ」


晴明に苦言を呈されて瞬時に黙り込んだ3人の様子がおかしくて息吹が笑った。

久々に心から笑っている息吹の笑顔を見て少なからずほっとした晴明は、談笑の輪に加わって息吹を喜ばせた。