主さまをいじめているつもりはないが、どうしても口調に険が籠もってしまう。
息吹の部屋に戻った晴明は、うなされている息吹の手を握ってそれがとても熱いことに胸を痛めた。
「苦しいかい?そうだろうね、心も身体も苦しいだろう」
傷口から菌が入ったのか、高熱が出てしまった息吹の額に冷やした手拭いをあててやり、寝ずの番を決行した晴明は、主が戻って来た息吹の部屋を見回した。
…こうして出戻りを期待していたわけではないが、掃除は毎日山姫にしてもらっていた。
布団も天気が良い日は外に干して、部屋の換気もして、息吹や嫁に行った日からひとつも物は移動させていない。
女々しいと言われればそうかもしれないが、右も左もわからないまま愛情だけは目一杯注いで育てた娘が傷ついている姿は、かなり堪える。
「息吹…十六夜は不器用な男だ。そなたと出会うまでは複数の女の間を渡り歩いていたこともあるが、それは愛が無い故に出来たこと。そなたを愛して目が覚めた十六夜はそなたを裏切りはせぬ。…今のそなたには響かぬだろうが…好きなだけここでゆっくりしていきなさい」
「…………さま…」
うなされながら誰かの名を呼んだ。
苦しそうに歪む表情は見ていてとてもつらく、目じりには涙が溜まって涙の通り道を流れていく。
先程主さまに話した通り、息吹が見た光景はどんなものだったか知らないが――主さまも悪ければ、胡蝶も悪い。
「あの性悪女が再び現れたか…。あんな女に関わった十六夜が悪い。まあ…不可抗力だろうが」
息吹の手を優しく握ったまま夜を明かした晴明は、今度は主さまではない来客の気配を感じて顔を上げた。
主さまほどの大妖が部屋に入ってこれないのだから百鬼とて無理なこと。
仕方なく腰を上げて庭に出ると、居ても立ってもいられないという表情をした雪男と山姫がそわそわしながら庭を歩き回っていた。
「晴明!息吹は…息吹は大丈夫かい?!」
「脚の怪我が祟って高熱が出ている。私は看病する故忙しい。そなたたちは戻って十六夜を見張れ」
「主さまが浮気なんて…嘘なんだろ?胡蝶がけしかけに来ただけだろ!?」
「私は知らぬ。事情は十六夜から聞くがいい。息吹はしばらくの間私が預かった。…山姫、しばらくはここへ来なくともよい」
連帯責任。
冷たい態度を取った晴明は踵を返して佇む2人を庭に残して部屋に戻った。
息吹はまだ起きない。
心と身体が、拒絶しているのだ。
息吹の部屋に戻った晴明は、うなされている息吹の手を握ってそれがとても熱いことに胸を痛めた。
「苦しいかい?そうだろうね、心も身体も苦しいだろう」
傷口から菌が入ったのか、高熱が出てしまった息吹の額に冷やした手拭いをあててやり、寝ずの番を決行した晴明は、主が戻って来た息吹の部屋を見回した。
…こうして出戻りを期待していたわけではないが、掃除は毎日山姫にしてもらっていた。
布団も天気が良い日は外に干して、部屋の換気もして、息吹や嫁に行った日からひとつも物は移動させていない。
女々しいと言われればそうかもしれないが、右も左もわからないまま愛情だけは目一杯注いで育てた娘が傷ついている姿は、かなり堪える。
「息吹…十六夜は不器用な男だ。そなたと出会うまでは複数の女の間を渡り歩いていたこともあるが、それは愛が無い故に出来たこと。そなたを愛して目が覚めた十六夜はそなたを裏切りはせぬ。…今のそなたには響かぬだろうが…好きなだけここでゆっくりしていきなさい」
「…………さま…」
うなされながら誰かの名を呼んだ。
苦しそうに歪む表情は見ていてとてもつらく、目じりには涙が溜まって涙の通り道を流れていく。
先程主さまに話した通り、息吹が見た光景はどんなものだったか知らないが――主さまも悪ければ、胡蝶も悪い。
「あの性悪女が再び現れたか…。あんな女に関わった十六夜が悪い。まあ…不可抗力だろうが」
息吹の手を優しく握ったまま夜を明かした晴明は、今度は主さまではない来客の気配を感じて顔を上げた。
主さまほどの大妖が部屋に入ってこれないのだから百鬼とて無理なこと。
仕方なく腰を上げて庭に出ると、居ても立ってもいられないという表情をした雪男と山姫がそわそわしながら庭を歩き回っていた。
「晴明!息吹は…息吹は大丈夫かい?!」
「脚の怪我が祟って高熱が出ている。私は看病する故忙しい。そなたたちは戻って十六夜を見張れ」
「主さまが浮気なんて…嘘なんだろ?胡蝶がけしかけに来ただけだろ!?」
「私は知らぬ。事情は十六夜から聞くがいい。息吹はしばらくの間私が預かった。…山姫、しばらくはここへ来なくともよい」
連帯責任。
冷たい態度を取った晴明は踵を返して佇む2人を庭に残して部屋に戻った。
息吹はまだ起きない。
心と身体が、拒絶しているのだ。

