「そうだなぁ…行ったんじゃない?」

「当たり…くやしいけど花園のヤツ、本当に何とかしちゃったのよね…あの時、花園がタクトを振り上げた途端に、その場の空気が変わったの…恋愛のドロドロしたものとかプレッシャーとか、全て一掃してしまうほど、花園の集中力はすごかったよ…音楽に関する限り、花園は別人になるんだよね…」

「ふーん…その頃から片鱗は、あったんだね」

「こいつには、敵わないと思ったよ…いつか大物になるかもしれないと思ってたけど、本当にやっちゃう所が花園だよね」

「ははは…」

才能と努力…紆余曲折の末に行き着いたのは…


ホール内に、開演のブザーが鳴り響いた。

照明が落とされ、幕がゆっくり上がって行くと、二人の前にオーケストラが姿を現した。

オーケストラとの距離は近く、ちょうど花園の目線上に、二人の席が来た。

花園は二人と目が合うと、嬉しそうに笑った…

やっぱりね…と、二人は目を合わせて苦笑する…

千歳が小さく手をふって、それに答えた。


指揮者が舞台の中央に立ってタクトを振り上げると、花園の表情が引き締まり、舞台は神聖なものへと変わっていく…

外は相変わらず雪が降りつもり、全ての音をかき消しながら、コンサートホールを包んでいった…

Fin