抱きしめたくて伸ばした、行き場のない手をゆっくり下ろして、僕はそう言った。



「え?」



菜月は、泣いて俯いていた顔を上げた。




「……僕はずっと、菜月のことが好きだった」



「え…?でも…」



「紗月が僕の事を好きだなんて言ったのは、僕と菜月をくっつけようとしたから」


「…え?」


「こうでもしないと菜月はきっと自分の気持ちに気付かないから、って言っていた」




紗月は、姉想いの優しい子だった。



『お願い、和馬』


在りし日の紗月の声が、脳裏にはっきりとよみがえる。