薇姫/獣帝






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倉庫の前にバイクを置き去りにして人だかりの中に飛び込んだ。





「ぁ……--あー…あぁあ」




紘の低い叫びが聞こえる。




なのに、届かない。




『っどけ‼』




自分で考えているより切羽詰まった声を出して人だかりは細い道を開けてくれた。





『紘‼』





人だかりを抜けたところには血に濡れた人間。






『……紘…』




はぁはぁと洗い呼吸音だけが倉庫に満ちている。




電話の時より荒れてはいないような紘。






『……紘』



「ふっはははははははははっ‼」






大きな笑い声が聞こえてそれをギロリと睨んだ。




『……お前か、』




「くくっ、なんでもお見通し的な?



笑えるぜ。




そいつ、バカだなぁ」





倒れている原型をとどめていない顔をした奴は喋りにくそうだけど懸命に口を動かす。




『……お前、紘に何を言った』






男の口角は小さく上がった。












「“お母さん、血だらけで死んだんだね






君達のせいで”っ……」




『それ以上言ったら殺すぞ』







顔面にかかとを落として睨みつけると「ふふ、ははは」と不気味な笑い声が聞こえた。




……クスリか。





尋常じゃない程のクスリを飲まされていたのか、狂いすぎているこの男。





……ごめん。






『……佐野……』





全ては佐野。






あいつなんだ。






なのに、誰かを巻き込むのは……










私へ苦しみを味わわす為か?












脇腹に蹴りをいれて気絶させた。




ぜぇぜぇと息をする紘に向かって歩き出す。




「琉稀っ‼」



恭輔達はそれを止めようと私に手を伸ばした。




『大丈夫だから』




恭輔達の顔には痣や擦り傷、いろいろな傷が生々しく残っていた。





『……ごめん』






関係無いのに。






紘に向かってもう一度視線を戻すと紘は鋭い目で私を見ていた。








『……紘、お前の母さんについての事は触れない様にしてたよ。』





びくりと肩が上がる紘に胸が痛んだ。




『……でも、人を傷つける事となるのなら







私は止めなきゃならない。』





紘は小さく目を揺らした。




『……晴斗はどうなるの?』





紘の瞳は潤み出して私を見る目つきが鋭さを失っていく。





『……痛みを分かち合える人は居るんだ。




自分の殻に閉じこもって何もしないのと自分で殻を破るか、どちらでもいいけれど…









閉じこもって何もしないのなら、私が破るからね』







紘の悲しみに満ちた心はいつしか固まってしまって、





溶けなくなった。







なにが、そんなに。





自分のものと混ぜるのも嫌いだけど、混ぜれば紘が楽になるなら。











分け合えばいいじゃないか。









『……紘、落ち着け』








目の前に立ってポンポンと背中を叩くと紘は私の肩に顔をうずめた。




肩口が濡れていくのがわかったけど、ただ背中をさする事しかしなかった。


























ーーーーなぁんだ、つまんない。







一人の男は口の中で飴を転がしながら心底つまらなさそうに倉庫に踵を返した。






ーーーーでも、崩壊はまだまだこれからだよ。











小さく呟かれた言葉は恐ろしく冷たかったーーーーー