もしも千年前の月があるのなら、君に見せてやりたい。

そんなことを思いながら、僕は望遠カメラを覗き込んだ。

公園の中、桜の霧の向こう側、ぽつんと灯る街灯下のベンチに、君は座っている。

君は闇から生まれたのか?

長くあでやかに、夜宵に紛れてしまう黒髪を見ると、そう訊きたくなる。

君は桜の精なのか?

きゅっと肩からくるまっている桜色のショールを見ると、そう訊きたくなる。

きのうも、おとといも、さきおとといも、その前もその前も、彼女は毎夜、あのベンチに座っている。

夕方六時頃から、深夜、十二時間近まで。

お供はペットボトルのお茶と、コンビニで買える三色串団子。

それと、彼女の横で用心棒よろしくちょこんと座っている、黒い猫のぬいぐるみだけだ。