もしも一億年前の月があるのなら、君に見せてやりたい。

そんなことを思いながら、俺は望遠カメラのレンズから目を離した。

自分の部屋から見える、赤より淡い夜の海。

はらはら流れる花びらの吹雪がさざ波を起こす、花見公園。

そのすぐ隣が、俺のアパートだ。

なぜだろう。

桜は光なんてしない。それなのに、公園一帯がほんわりと明るい気がする。

闇夜の黒に、桜色の海は静かに沈んでいるはずなのに。

風が吹いて、公園に百と咲き誇る桜が、揺れた。

俺の部屋は二階だから、桜を見下ろす形になる。

風に吹かれて散り舞い、路面に積もっていく花弁は、まるで海面に映った星か、それでなかったら水底で謳う真珠のようだった。