長の名をエノヒという。


 村の者たちと協力し、数名の子供たちや大人を受け入れ、親のない子の親がわりのような存在。都心でいう孤児院を建てた人物だ。

 現在も数名の子供が村で生活している。






「そうそう。この頃、人売りが出るって」

「人売り?でもあれって禁止されているよね」

「うん。村の人も警戒しているのよ。それから――――人魚」





 私とリンは古い付き合いで、一番の友人だ。

 リンから"人魚はいる"ことを聞くまで、たんなる昔話だと思っていた。だが実際はそうじゃない。"この地域にだけ"姿を見せないのだ。



 だから"この地域で人魚を見た"という話は不確かなものなのである。それを初めて知った時、悲しかった。

 この国は古くから人魚……海に住む者と共存してきたという。有名な話があるからだ。なのに―――――この地域には、人間と人魚の古い昔話だけで、人魚は全く姿を見せないどころか、伝説や想像上のものとなってしまっている。