「しょうがない。井上を家まで送ってくか‥‥」
仕方がなくカウンター席から腰をあげる黒田を引き留めるように、井上の隣から聞き覚えのある声が発せられた。
「黒田。俺が行くよ。井上と家も近いし‥それに、黒田の家は反対方向だろ?」
今まで口数が少なかった松井は、立ち上がってぐったりとしている井上の腕を肩に回していた。空いた方の手でスマホで電話をかけている。話の内容からタクシーを呼んでるみたいだ。
「‥‥‥松井、すまないな。ありがとう」
「いつも手助けされてるからな‥」
恥ずかしそうに言う松井に、黒田は柔らかく笑う。その2人の光景を暁は少しだけ頬を緩ませていた。
タクシーは思ったよりも早く店の前に到着して、酔い潰れた井上とそれを支える松井を乗せて走り去っていった。店の前で見送りを終えた黒田は再び店の中へと入ってくる。
「今日はお騒がせしました。井上にはお酒を少し自重するように行っておきます」
黒田はカウンター席にゆっくり腰をかけると飲みかけだったビールを飲んでいた。どうやらお酒には強いタチらしい。お店に来た当初の態度と全く変わらない。変わると言っても頬がほんの少し赤く染まっているくらいだ。
「いや、日常茶飯事だからな。気にすることはない。」
「えぇ、そうでしたね。‥‥高城さん。お勘定は3人分払います。領収書ください」
