麗には羨ましげに、ルイには拗ねたような視線を向けられ、とどめとばかりにノアールの冷たい視線を感じ取り朔夜は表情を引きつらせる。



ただ単に、髪についたごみを取ってもらっていただけなのに、どうしてこんなに言われなければならないのだろう。



というか、何故ノアールはあんなに不機嫌なのか。



自分が知らぬうちに何かあったのだろうか、と首をかしげながらも無意識にじりじりと後退していると、距離が出来た分陽雫と麗がじりじりと詰め寄ってくる。





「ちょっ、何で近づいてくるの!?」

「朔夜が逃げるからじゃん!」




当たり前の答えに、朔夜はさらに表情を引きつらせて後退していると不意に後頭部を固い物が直撃した。


予期せぬそれに受け身をとりそこなった彼女はしたたかに後頭部を打ちつけ、頭を押さえて目尻に涙を浮かべながら蹲る。


呆れたような視線を一身に受けながら、朔夜は滲む視界で背後を見るとそこにはひびの入った白くくすんだ壁があり、朔夜は目を見開いて息を飲んだ。



ひやりとしたものが陶中に滑り落ちるのを感じながら、彼女はぜんまい仕掛けの人形のようにぎこちなく首を動かし前方を見やると、そこには勝利を確信した笑みを浮かべた二人が不気味に迫ってきているところで、朔夜は悲鳴を呑みくだした。




「ほら、もう逃げ場はないんだから。諦めよう?」




無邪気な微笑みと共に、陽雫は小首をかしげる。



愛らしく見えるその仕草が、今となっては恐ろしい。



目を見開いたまま固まる朔夜の視界の片隅に、怨霊と言われても違和感のない禍々しい雰囲気を醸し出した麗が映り頬を引くつかせた。