一時間目、算数だった。

算数の先生が入ってくる。

大きな体をした、柔らかい表情の先生、

通称、ヘタレデブ先生。

皆そう呼んでいる。


授業中、騒ごうが何しようが注意できないのだ。

私は授業の話を聞こうとするが、声がかき消されるのでとうの昔に諦めている。


 
だから最近では夕栄と絵の勝負をしたりしている。


 
それとか、恭夜と優奈と夕栄と私で雑談、


まぁ大体が雑談だが。


 
「ヘタレ来た」

「来たね」

夕栄がメガネを持ち上げながら言う。


今日は私も夕栄も絵を描く気分ではあなかったので、

今年なる中学生についての話をしていた。


 
「中学生になったら、算数じゃなくて数学になるんだよね」

「俺どっちもいいんだけどなぁ」

と微笑む夕栄。


改めて格好いいと思った。


「夕栄かっこいーから中学になったらすぐ彼女できそう」

「俺のこと好きになるの優奈ぐらいだろ、奈々もすぐ彼氏できそう」


そんな話で盛り上がっていた。


 

いつの間にかチャイムが鳴る。


「あ、ぁ、こ、これで算数の勉強を終わりま、す」



礼、


その合図で、男子の大半が外へ走る。


私は席へ座った。


「夕栄!」

「…またか」

そう真顔で夕栄は言うと、猛スピードで廊下を走って行った。


「夕栄~、待って~!!」


普段は遅い優奈でも、夕栄を追いかけるときは怖いくらい速かった。



「ははっ、あいつら面白い」

そうケラケラ笑いながら廊下を見つめるのは、恭夜だった。



「だよね、私も思う」


頑張って話した、


顔は赤くないだろうか、

声は変ではないだろうか、

不自然ではないだろうか、


そんなことばっかり気になる。


すると、恭夜が私の方へ向く。


「あいつら付き合えばいいのにな」

そういいながら目を細めて笑う。


「だね、」


そんな笑顔を私に向けないでほしい。














期待、してしまうから。