「ねぇ、カノンを弾いてよ」

「カノン?」

いきなり言ってきた君は僕の手を取ると、廊下を抜けて、階段を登って、その教室のドアを勢いよく開けた。

「ほら座ってっ」

「っとと」

そうしてグン、と押しつけられたのは、音楽室の、ピアノの前。

彼女の白い指で手際よく蓋が開けられ、赤い布が取り払われる。

そうして現れた白と黒を、

タンターン♪

と、彼女は軽やかに叩き、僕を見た。

その瞳は、いたずらっぽくキラキラしている。にんまりした頬に、ポコッとえくぼがかわいかった。

「さっ、弾いてちょうだい」

と彼女は言う。