第一、今まで好きな人のような扱いを彼から受けてはいないのだ。

 一人の友達としてワイワイガヤガヤやっていたものを、いきなり恋愛モードに切り替えろという方が無茶な話。

 それに私は彼氏だなんて大層なものがいた経験は無いから普通がどうなのかは知らないけど、初めての彼氏くらいはもっと夢を見ていたい。

 加えて昨日と今朝のそっけない態度が、誰が受け入れてやるものかとさらに私を意固地にさせていた。

 そんなことを悶々と悩んでいるうちに朝練終了の時間を迎えた。

 朝のHRに間に合うようにと私は体育館中を走り回って片づけを始める。

普段なら終わる少し前から片づけを始めるのだが、今日は悶々と考え事をしすぎて忘れてしまっていた。
 ボールかごを倉庫に閉まってから時計を見上げると、既に8時25分を指している。

 朝のHRは5分後の30分から始まるので、バスケ部員の足で廊下を全力疾走すれば部室に荷物を取りに行っても十分に間に合う。

 片づけを手伝ってくれている1年生たちが送れないようにとさっさと教室に返し、私も残りの片づけを進めた。

 しかしこういう時に限ってゴールを動かすリモコンの調子が悪かったり、救急バックの蓋が空いていて中身を床にぶちまけるなどといろいろなアクシデントが重なる。

 全て片づけを終えると時計はもう3分進んで28分。
 どう考えても荷物の置いてある女子更衣室を経由していては間に合いそうになかった。

 うちの担任は変なところが厳しくて、制服を最低手元に持っておかないと問答無用で遅刻にする人だ。
 もう潔く遅刻しようと決めて体育館を出ると、何故かそこにはとっくに教室に向かったはずの久保田がいた。

それも私のリュックと制服を片手に持ってだ。


「…何やってんの?」
「お前の荷物わざわざ取って来てやったんだろが」
「あ、うん、ありがと」
「遅刻するから走るぞ」
「え、ちょっと!まってよ!」


 スマホで時間を確認した久保田は私の制服を腕にかけたまま私の手をゴリラのような握力で掴むと、そのまま私たちの教室までの道のりを物凄いスピードで走り抜ける。

 私はもともと足が速く無いので、彼に引かれるがまま足が縺れないように必死に足を動かした。