「バスケうまいしさー、絶対彼女いるよね」
「なんか清楚系のふんわりボブみたいな子好きそー」
「大和撫子的なね」
「あー、私らには程遠いやつね」
「それやね〜」
それからしばらくスコアをつけて得点をパラパラめくりながら、久保田の話に夢中になっているマネージャーたちの会話に聞き耳をたてることにした。
知らないということは哀れであり、また知らぬが仏である。
きっと今はキラキラのアイドル顔負けの笑顔で走っている久保田が、私に対する辛辣極まりない態度をしているのを見たか彼女たちのピンク色の乙女な妄想も粉々に飛散するはずだ。
確かにコートの中の久保田がかっこいいのは100歩譲って認めたとして、人間とは誰しも欠点をカバーできる何かがある。
人間として破綻しているとしか思えない性格の奴の救いがコートでは眉間のシワが取れるという点なのだ。
第一、久保田は清楚系のふんわりボブの可愛い女の子より部活でひーひー言いながら汗まみれになり、アイロンなんて休みの日にしかかけない適当に伸ばした髪の毛を適当にゴムで結い上げているような女だ。
少なくとも私の久保田に対する態度は少なく見積もっても清楚系ではない。
そんなことを考えているうちに第2クォーターが終了した。
相手のマネージャーはすぐに立ち上がり、コートのモップがけを始めた。私もスコアやらなんやらを適当に足元にまとめてからモップがけに走る。
そして戻って来てみると、また彼女らの女子トークが始まっていた。
「いいなぁ、なんでうちの部活イケメンいないのかなぁ」
「たしかに。タカミはちょっと顔整ってるけど部活に対する態度がねぇ」
「一生懸命ってさ、やっぱカッコいいよね」
たしかに、と納得してしまった。私が久保田を嫌いになりきれない理由は多分そこだ。
極悪非道な奴の血の色は緑色だと思っても、毎日毎日欠かさず一番最初に来て一番最後に帰る。
誰に何を言われても努力をひけらかさないし、何より努力することをやめない。そんな姿を見せ付けられちゃ嫌いなんてなれるはずもないのだ。
――少しくらい、久保田の気持ちに向き合ってもいいのかもしれない。
「あ、わり。手ェ滑ったわ」
「は?って痛!!!!!」
いきなり久保田の声がして顔を上げてみると、私の胸めがけてボールが飛んできた。
飛ばしたのはもちろん声の主である久保田。
試合中とは打って変わって不機嫌そうに眉を寄せている久保田は、特に悪びれた様子もなくすぐさまボールを回収して元のシューティングに戻ろうとしていた。
「いきなりなに!?!?」
「あ?謝ったろ」
「悪いと思ってないでしょ」
「試合中にぼーっとしてるお前が悪いし、元からねえ胸に当たったところでもう減りははしねえよ」
「今ハーフタイムじゃん!!!」
「うるせ。集中してんだよ」
一瞬でもかっこいいと思った私の気持ち返せ!
そんな口に出来るわけもない感情が体の中を猛スピードで走り回っている。
先程まで久保田をかっこいいと言っていた女の子たちの話題は、すでに別の話題へと移っていた。
