そんなモヤモヤとした感情は浮かばれることなく、解決しないままでとうとう練習試合当日を迎えてしまった。

 根っからのバスケ馬鹿の久保田も今日ばっかりは私に対する対応も淡白で、カッコつけて膝のサポーターを伸ばしたり、ツーブロにしたくせにゴムのヘアバンドをつけて臨戦状態だ。

 私も私で久保田のことなんか一ミリも構っていられないくらい忙しい。

 相手はマネージャーを3人も抱えてるほど大所帯の大きなチームで、それなりの強豪ということもあってかコーチの人数が多い。

 お茶出しやお弁当の手配、それから相手チームの保護者の案内などはすべてマネージャーの仕事なので朝からてんてこ舞いだ。

 練習試合が始まってからも、笛は吹けないもののコートの二面を使って同時進行で試合を行っているので得点板とスコアを並行で行いながら試合を見守る。

 相手のチームのマネージャーは審判が出来るようで、可愛いピンクの笛を吹いていたのが少しだけ羨ましく思えた。


「パスが遅い!!!」
「そこぉ!すぐスイッチ入れ!!」
「ポストガラ空きやぞ!!」


 ガードの先輩の声や、互いの監督の声が怒号のように体育館中に響き渡る。

 練習のときの単なるバッシュが擦れる音もボールが弾む音も大好きだ。
 
でも試合のときの音は少し違う。なんて表現したらいいのかわからないけど、お腹の奥から興奮が湧き上がってくるように思えるのだ。


「オフェンスリバン…!ナイシュ!!!」
「アキ!!ナイシュ!」


 センターの先輩の打ったシュートがリングに嫌われたが、勢いよく飛び込んできた久保田がボールを攫うとそのままシュート。ボールはボートにバウンドして綺麗にネットを揺らした。

 センターの先輩は久保田の頭をワシャワシャと撫で回すと、久保田は最初こそ嫌そうな顔をしたがすぐに悪戯が成功した子どもみたいなすがすがしい笑顔を浮かべた。

 なんでバスケしてるときはあんな少年のような笑顔が出来るっていうのに、一旦コートを出てビブスを脱いでしまえば眉間にシワは寄るわ、笑うと言ったって人を馬鹿にしたような笑い方ばかり。

 そのままにしてればモテるのに。

 心の中で悪態をついては見たものの、自分のチームの得点をしていた相手チームのマネージャー二人があの12番めちゃくちゃかっこいいね!なんて話を始めるから、またこの間から晴れないもやもやがどこからか復活した。

 12番。一年生のときから変わらない久保田の背番号だ。