「ちょっと離れて」
「あ?人がせっかく教えてやってんのに」
「でも、こんなにくっつかなくてもいいじゃん」
「安心しろよお前の貧相さと色気のなさは買ってるから」
「もう一回言ってみようか!」
「色気ねえから大丈夫」
腹立つ!私の鳥肌を返して欲しい!
その思いを込めて全力でこぶしを振り上げるも、そのこぶしをさらりとかわした久保田はそのままレイアップの体勢に入っていた。
タッパを生かしたレイアップはまさに「ゴールに置いてくる」という言葉がお似合いだ。それがまた悔しくてボールかごにからボールを取り出して出来る限りの力でボールを投げつけた。
勿論そんな攻撃は効かないと言わんばかりに、三つ四つと簡単にボールを集めていた久保田だが、六つ目を過ぎたあたりから抱えきれなくなったボールが顎やら膝やらに当たり始める。
腕の許容量をオーバーしたボールが床に転がった時、勝機が見えたと再びカゴに手を伸ばすが、既にボールは投げ尽くしてしまっていた。
色濃く私を彩っていたはず勝機が一気に敗北へと色を変える。もちろん目の前にいるのは血管が浮きだたんばかりの形相をした久保田。
負けは見えた。
「瀬名ァ」
「ご、ごめん!ごめんなさい!!」
ギロリと動いた眼光が私を捉えると、久保田は自分の周りに散らばったボールの一つをとって私に向かって投げつけた。
私は知っている。このボールがどれほどの威力を持っているのか。
去年の球技大会で、自分の所属部活の競技には出られない規定があり、久保田は泣く泣くドッヂボールに出場した。
しかし競技前にあれだけバスケに出たいと不機嫌だったにも関わらず、競技が始まってしまえば嬉々とした顔でボールを投げ続け、終いには運と剛腕を生かして優勝してしまった過去がある。
つまりあれに当たることは死を意味している。そのくらい大袈裟なくらいで丁度いいのだ。
腹で受ければ多少威力は弱まるだろうか。それを期待して腹で受ける体勢を整えたのだが、ボールが接触する寸前に一本の腕が伸びてきてボールを止めた。
あまりの唐突さに腕の伸びて来た方向を確認すると、そこには部長のシュウ先輩が複雑そうななんとも言えない表情で立っていた。
