「荻野目くん。」
にっこりと柔らかく微笑む美女が家の前に立っていた。
あまりの美しさに自分にもお迎えが来たのかと思ったが違った。
最近自分の思考回路がみずきに似てきたな、と荻野目は思う。
家の前にいた美女は同じ学年、同じサークルの佳乃子さんだった。
「何?」
彼女とは今までも挨拶くらいしか話したことがなかったので何の用だろうと思った。
ふわりといい香りが鼻を掠める。
あぁ、女の子だなぁ、と思った。
別にみずきに女の子らしさを感じてないわけじゃないけど、彼女は何だか神聖な、女の子というよりも女性らしいと言ったほうがいいのかもしれない、そんな風に思えた。
佳乃子さんはサラリと長い綺麗な髪をたなびかせ、首を傾げた。
「荻野目くんって、みずき先輩と付き合ってるの?」
みずき……あぁ、みずき。
四日睡眠をしなかった頭は上手く働かず自分の彼女の名前を繰り返すことしか出来なかった。
「荻野目くん?」
佳乃子さんにそう呼びかけられたが如何せんボーッとして声を出せない。
限界だ。
眠い。
眠気の臨界点突破。
普段の自分では考えられないほどにわけの分からない言葉が頭の中に浮かんでくる。
ふと、花のようないい匂いがふわりと、香る。
さっきよりも強く。
佳乃子さん、近くでみればすごく綺麗だな。
そんなことを思った。
……近く?


