アドラーキャット





自分でも分かるくらい私は精神的に参っていた。


自分なりに荻野目くんに釣り合うくらい良い女になりたくて頑張ってきたつもりだったのに、あっさり荻野目くんに裏切られて。
挙げ句の果てに、一生懸命作ったチョコレートを川に流してしまった。
今更ながら自分で食べておけばよかったなぁ、なんて思いながら。

だからか、誰でもいい、隣に座る知らないお兄さんにでもいいから、話を聞いてほしかった。



「……浮気、されたんです。」

「そうなんだ。」

お兄さんはお酒を飲んでいたが、目はこちらを向いていた。

一応、話は聞いてくれるみたいだ。


「まだ付き合って一年も経ってないんですけど、同じサークルの私なんかよりもずっとずっと可愛い子が、彼の家から出てきて、キスしてるのを見ちゃって……」

カラン、と氷が動いた音がした。