「おねーさん、ペース早くない?大丈夫?」
「………大丈夫です。」
私はそれから十分後洋楽が流れているバーに入っていた。
初めて入る店だったがそれが良かった。
今は誰にも知り合いには会いたくない。
隣に座っている人は髭が生えた二十代後半くらいのお兄さん。
帽子をかぶり私には名前が分からないお酒を呑んでいる。
くいっと酎ハイを口に含む。
「ほら、これ。」
隣のお兄さんが見兼ねたのか烏龍茶を差し出してきた。
「……ありがとうごじゃいます。」
断る理由もなかったので受け取る。
というかもうどうでも良かった。
「自棄酒もほどほどにね。」
大人の余裕というのだろうか。
全て分かっているようにフワッと笑ったお兄さん。
「……お」
「お?」
「大人の余裕が、欲しいれす。」
「なんだそれ。」
ハハハと軽く笑って受け流したお兄さん。
このお兄さんとの接点なんて、たまたま入ったバーで隣に座った人というだけ。
それ以外に、何もない。


