「荻野目くんってネコみたいだよね。よく言われない?」

「……言われない。」

私の努力が実を結んだのか、出会ってから半年、ようやく荻野目くんが話してくれるようになった。
まぁ、祐介くんに比べればかなり素っ気ないけどね。


私が部活終わりの荻野目くんを絡んでいると、別の部員が荻野目くんに話しかけてきた。

「おいアドラー。」

「アドラー?」

私が聞き返せば荻野目くんは分かりやすく嫌そうな顔をした。
なんでアドラーって呼ばれてるんだろう。
一文字も合ってないよね荻野目とアドラー。
てかアドラーってもしかしてあれ、倫理で出てくるあの人?

「ねぇなんでアドラーって呼ばれてるの?倫理好きなの?」


私がそう言えば荻野目くんはめんどくさそうに口を尖らせる。

「倫理は、嫌い。」

「え、じゃ、なんでアドラー?」

私がそう聞いても荻野目くんはもうそっぽを向いて教えてくれなさそうだ。
代わりに通りかかった祐介くんが教えてくれた。

「こいつ、倫理のテストの回答欄全部アドラーで埋めたんですよ。」

「アホか!」

「……それ以外知らなかったから。」

祐介くんはアハハと笑っているけどそれはかなりヤバイだろう。
うちの学校はそれなりに偏差値が高いから赤点なんて取ったら部活が出来なくなる。

「赤点じゃないのそれ!?」

「……政経満点だったから大丈夫。」

「極端すぎでしょ‼」

どうやらニャンコ系男子、荻野目くんは政経が好きらしい。

そこへ、私と同じ学年の部員が通りかかった。

「荻野目くん面白いアダ名つけられたねー。」

「……そうですか。」

相変わらず俯いたままでモゴモゴと話す荻野目くん。

だが、ひとつだけ気になることがあった。

「ねぇ、荻野目くん。」

「……はい?」

「なんで私には敬語使わないの?」

私以外の先輩には敬語を使わないのに私だけタメ語だ。
なんだ舐められてるのか。

「あ、もしかして親しみの証とか!?」

「……敬語を使う必要性を感じないから。」

「君けっこう失礼だよね‼」

私はもう荻野目くんは荻野目くんっていうイメージしかないからアドラーっては呼ばないことにした。