アドラーキャット




サワサワと葉がこすれる音が頭上の木々から聞こえてくる。

小銭を何枚か入れ暫し私は自動販売機の前に立ち尽くす。
数秒迷った後、ココアを押し、ガコンッと出てきた缶を取り出す。
ひんやりとしていて気持ち良い。

ココアを持ち自販機近くのベンチに腰掛ける。
一息ついて一口、口に含む。
甘い。


『みずき先輩っていうのが意外で。』


先程聞いてしまった女の子たちの言葉を思い出す。

頭を冷やして冷静に考えてみれば、そうだよなぁ、当たり前だなぁと思う。

顔も良くて頭も良い荻野目くんだ。
愛想は良くないが、それを十分補えるくらいには良い人だ。
佳乃子ちゃんが惚れるのも分かる。
私とは釣り合わないというのも分かる。

そもそも何で荻野目くんはこんな色気も可愛げも胸もない私を好きになったのか。
自分で言って悲しくなってきたが、それが現実なのだ。
思わず頭を抱える。

何故昨日の私は「私が荻野目くんを捨てる」だなんて言えたのだろうか。
どう考えても捨てられるのは私だ。
傑先輩、今回だけはあなたは正しかったです。
でもなんかムカつくんで今度あなたのコカコーラの中身めんつゆに変えておきますね。


鬱々とそんなことをじっと考えていたら。



「みずき……」



突然懐かしい声に呼ばれた。
顔を上げたら、目の前に荻野目くんが立っていた。
軽く息を乱している。

ベンチに座っている私を見つけて走ってきたのだろうか。
汗をかいてもむさ苦しくはならず爽やかに見えるのだから本当にイケメンって得だ。