アドラーキャット






ずーんと、頭を何かに押さえつけられている感じ。
今日は朝から気分が悪かった。

私は心なしかフラフラとした足取りで大学の廊下を歩く。



『捨てられても文句言えねーぞ』



頭には昨日の傑先輩の言葉がずっとぐるぐる回っていて、なんだかモヤモヤしたものが胸に溜まってくる。

なんであの人にあんなこと言われなくちゃいけないんだ。
余計なお世話だ。

イライラとした想いが湧いてきて、少し大股気味で歩く。

カラッとした女の子たちの声が聞こえたのは、角を曲がった時だった。



「でさー、めっちゃ意外だったんだけど、荻野目くん佳乃子の告白断ったんだってー」

「えー、佳乃子振るとか荻野目くん理想高すぎでしょ。」


その会話にギクリと身をこわばらせる。
別に悪いことしたわけじゃないけど、リアルタイムで悩みの種となっている人たちの名前。

荻野目くん、佳乃子ちゃんのこと振ったんだ……
ふっと肩の荷がおりたような、安堵するような気持ちになる。
そんな自分がなんだか嫌だった。

それでも、荻野目くんが佳乃子ちゃんを振ったという事実は、先ほどまでの気分の悪さを消してしまうくらいの効果はあった。
メールくらいだったら返してあげてもいいかな、なんて調子の良いことを考えてしまうほどにも。


「え、てかあんた知らないの?荻野目くんってみずき先輩と付き合ってるんだよ。」

「は!?知らなかった!え、嘘あの二人が!?」

「結構二人でじゃれてるじゃん」


突然自分の話になり私はいよいよどうしていいのか分からなくなる。
てかなんだじゃれてるって。
私達は犬か何かか。

このまま話を聞いていいのか迷う。
自分があの二人の女の子にどう思われているのか。
聞きたいような聞きたくないような。

だがあの二人が待ってくれるはずもなく会話を続けてきた。