恋の訪れ


「なぁ、それよりさ。前から思ってたんだけど、葵ちゃんって幾つになっても可愛いよな」


ソファーで寝ころんでくつろぐ先輩は携帯を片手にあたしに視線を送る。


「何、言ってんの…先輩」

「え、何って葵ちゃんが可愛いって」

「えー…ってか美咲さんのほうが凄い美人だと思うけど。香澄先輩とかも言ってたよ?」

「美人ねぇ…お前知らねーと思うけどアイツ怒ったらマジうっせーんだから」

「え、でもこの前優しかったよ」

「お前だからだろーが。ってか、もうやめてアイツの話」

「先輩からしてきたんじゃん」


不意に鳴り出した携帯の振動音にあたしは手を伸ばす。

画面を見ると真理子からLINEが入ってて、″明日、約束のケーキ食べに行こう。いつもの喫茶店に13時集合ね″なんて書かれたその言葉に、あたしはすっかり約束をしたことも忘れてた。

とりあえず″分かったよ″って返して、寝ころんでる先輩に視線を送った。


「先輩…あたし、明日は予定あるんで」


とりあえず先輩に報告したのに、

「俺もそんなお前に付き合ってるほど暇じゃねーし」

なんて嫌味っぽく返される。


「あっそうですか」


もう優しいんだか意地悪なんだかわかんない。

結局、昴先輩がご飯を食べて帰る頃には20時を過ぎてて、玄関まで行ったあたしは先輩に声を掛ける。


「歩いて帰るんですか?」

「んな訳ねーだろ。大通りでタクシー拾うわ。なに?心配してくれてんの?」


笑みを向けた先輩に素早く首を振る。


「いえ、してません」

「そこはしろよ。んじゃーな。鍵、しろよ」


ガチャンと閉まったドアに一息吐き、静まり返ったこの空間が何故か寂しく感じてしまった。