恋の訪れ


「あのね、ママ。もうほんとに大変だったんだよ?帰ってきたらお姉ちゃんが居てさ、いっぱい馬鹿にされるし先輩もお姉ちゃんと騒いでるし、あたしはご飯まで作って大変だったんだよ?」


ソファーに膝をつけて後ろを振り向くと、ママはキッチンに入って慌ただしく動き出す。

そして。


「えー…大変だったって、昴くんの方が大変でしょ?莉音、寝た挙句、ここまで送ってきてくれたんだから」


なんて、ごもっともな言葉を吐き出したママに何も言えなくなったのはともかく、隣でクスクスと笑ってる先輩が余計にムカついた。


「ごめんねー、昴くん。迷惑かけて」

「いえ、大丈夫です」


なんて丁寧な言葉を使う先輩に余計に腹が立つ。

こっちが大丈夫じゃないし!なんて思いながらため息を吐き出す。


「あ、それよりねママもう一度、仕事場に戻るからさ。香恋は居るの?」

「お姉ちゃんなら派手な格好して出て行ったけど。バイトだって」

「ふーん…そうなの。じゃあご飯作ってもう一度行くから。パパも遅いって言ってたから。あ、なんなら昴くんも食べて帰れば?」

「だからね、先輩はもう帰るんだって」

「だから言ってねーだろ、そんな事」


″んじゃ戴きます″

付け加えるかのようにして言う先輩にウンザリする。


ママがご飯を作って出て行った頃には18時を過ぎてて、また昴先輩と二人と思うと憂鬱になる。

自分の家かのようにくつろぐ先輩にもう言う言葉すら何もなかった。