恋の訪れ


「するわけないじゃん。…別に先輩の事、好きでもなんでもないのに…」

「あぁ、そうかよ。ってかお前にそんな奴いんの?」


グっと近づけられた先輩の顔。

そのまま首を傾げられ、密かに口角を上げられる。


「いるよ」


そう小さく呟いて先輩から更に顔を背けると、


「あ、あぁ…あれか。ヒロくんっつー奴か」

「……」


なんて昴先輩の口から名前が出たもんだから思わず目を見開いた。

そんなあたしに先輩はクスクス笑って、


「サクヤが言ってたっけ」


タバコを咥えたまま言葉を吐き出した。

サクヤ先輩って、ほんとお喋りだな。

でも、まぁ隠すほどの事でもないしな。


昴先輩に知られても全然何も感じないや。

だから。

「昴先輩よりね、すっごく優しいの」


そんな事を言ってニコッと微笑んでみた。


「へー…俺よりね」

「先輩みたいに虐めてこないし」

「へー…そうかよ」

「先輩みたいに愛想悪くないし」

「へー…だから?」

「先輩みたいに――…」

「お前さ、マジでこの口、塞ぐぞ」


グニュって摘ままれた唇が痛い。

目を瞑って顔を顰めるあたしは先輩の腕を何度も叩く。

そうすると離してくれたことで、口から息を深く吐き出した。