恋の訪れ


「そんな事、しないでよ。泣く女嫌いって、昴先輩言ったじゃん」

「言った。それは莉音が泣かない為に言った」

「……」

「そうしたら泣かねーんじゃないのかって」

「……」

「泣いたら、ここに負担くんだろ。ストレス溜めたら不調になる」


頬から昴先輩の手が左耳に移った。

軽くそっと撫でられるその仕草に、あたしは息を飲む。


その先輩の柔らかな手の感触の所為で、あたしの心を乱されてるかのように感じた。

昴先輩の事は嫌いだったのに…

嫌いだったのに。

こんな急に優しくなんかしないでよ。


「だって何でか分かんないけど涙でちゃうんだもん」

「それは莉音が馬鹿だから」

「馬鹿って言わないでよ」


頬を軽く膨らませると、先輩はフッと鼻で笑って耳から手を離す。


「…莉音、ごめんな」


小さく呟かれたその言葉に、また涙が頬を伝う。

″莉音ちゃん、ごめんね″

やっと分かったその言葉に、胸が苦しい。


「昴先輩の所為じゃないから。だからもう言わないでよ。また泣いちゃう。それに…昴先輩は悪魔のほうがずっといい」

「はぁ?お前、なんつった?」

「優しくされると怖い」

「別にそんなつもりねーんだけど」

「だって先輩はいつも女の子、泣かせてるじゃん」

「だから泣かせてるつもりもねーんだけど」

「それにね、サクヤ先輩が昴先輩は毎日女の人を抱いてるって言ったの」

「はぁ!?」


大声を上げた昴先輩の表情が一気に崩れる。

眉間に皺を寄せた先輩の舌打ちが密かに聞こえた。