恋の訪れ


「ま。都合よくお前は俺の事、何にも知らなかったけど。でもそのほうが好都合だった」

「……」

「俺は莉音とは出会いたくも会いたくもなかったから」

「…っ、」

「ただ過去を思い出したくなかっただけ。辛そうなお前を見ると思い出すから」

「……」

「なのにお前は同じ学校に来るし、おまけに訳分かんねー合コンとやらに参加してるわで、サクヤも調子に乗るわで俺のペースを完全に乱された」

「……」

「いつかは莉音に言おうって思ってた。でも知らないんだったらこのまま終わろうと思った。あの金平糖も俺が高校生までって決めてたから」

「……」

「なぁ、これで分かるか?お前が早く帰らねーといけねぇ理由。葵ちゃんも諒也さんも、莉音が遅くなると心配する理由。どこかで不調が起きて倒れた時が心配だから。俺の所為でお前は――…」

「だから!!」


そこまでひたすら話を続けてた先輩の声を、あたしは大きな声で遮った。

瞼の上に置いていた手を振りほどき、身体を起す。

その目の前に胡坐を掻いて座っていた昴先輩の顔を、ぼやけた視界の中、薄っすら見つめた。


「だから先輩の所為じゃないって言ってんじゃん!!今更…今更、俺の所為だって言われても分かんない!!ちゃんと、ちゃんと聞こえるもん!!」

「……」

「今だって、ちゃんと聞こえてるもん!!」

「分かった。分かったから泣くな。もうこれ以上、泣くな」


昴先輩はあたしの頬に手を伸ばし、伝う涙をそっと何度か拭う。