恋の訪れ


「莉音の場合、重度の難聴じゃねーけど、そうさせたのは俺、だから」

「違う、違うよ。昴先輩じゃない」

「でも連れて行ったのは俺だから。あれだけ行くなって言われてんのに」

「……」

「そのあと、俺は凄げー怒られたよ、美咲と親父に。だからこれで分かった?」


″金平糖の意味″

そう付け加える様にして呟かれたその言葉に、また涙が溢れ出した。

こんなに泣いたのはいつぶりだろうって思った。

別に泣きたくなんてないのに、何でか知らないけど溢れる涙を止めることが出来なかった。


″莉音ちゃん、ごめんね″

一番初めにその言葉とともに書かれた金平糖。

あの日からずっと先輩はあたしに金平糖をくれてたんだ。


「…なんでっ、こん…平糖?」


泣いてる所為か上手く言葉が出ない。

手の甲で涙を拭うあたしに昴先輩の声が密かに聞こえた。


「いつも莉音が食ってたから」

「あたしが?」

「そう。あの日以来、莉音のそれまでの記憶が殆どないって知ったのは俺が中3になった頃。香恋さんに聞いた」

「お姉ちゃんに?」

「あぁ。会うたびにお前の耳の調子の事、聞いてた」

「……」


だから昴先輩とお姉ちゃんは会ってたんだ。

なのに何で何も言ってくれなかったの?

昴先輩はともかく、なんでお姉ちゃんは何も言ってくれなかったんだろう。