「違くねーよ、だから俺の所為なんだよ。莉音の耳―――…」
「聞きたくない」
昴先輩の言葉を遮って、あたしはシーツを引っ張りあげる。
半分、頭が混乱して、聞こえる耳を下にしてる所為か、左耳で聞き取るのがやっとだった。
その微かに聞こえる左耳にシーツを被せると、まったく無の状態になる。
だからなのか背後で動いた昴先輩はあたしの身体を軽く揺すった後、シーツを剥ぎ取る。
そして、あたしの身体を仰向けにすると、
「莉音、聞こえる耳を下にすんな」
その拍子に、何故か涙が頬を伝った。
「だって、先輩が訳わかんない事言うから聞きたくない」
「訳わかんない事ねーの。これが事実だから」
「あたし覚えてない。何も知らない」
「その後、莉音は入院した。だけど左耳だけが調子戻らなくて」
「……」
「急性低音障害型感音難聴。聞いた事、あんだろ?」
「……」
昴先輩が言ったその名前にまた何でか分からないけど、涙が伝った。
あたしは馬鹿だから、そんな長い名前なんて覚えられなかった。
いや、覚えようとはしなかったんだ。
でも、何度か聞いた事のあるその名前に、苦しくなって、あたしは手の甲で瞼を抑えた。



