「ほんとそう思ってんの?」
「うん。だってね、小さい時からずっとだから」
「だからそれは俺が助けなかったから」
「…助けなかった?」
過去の記憶なんて、あたしの中には何にもなかった。
記憶があったとしても、あたしの耳が調子悪い原因すら知らなかった。
知らなかったと言うよりも、何も覚えてんかない。
過去の事なんて、今更知りたくもないけど…
「あの時、キャンプに行ってた。俺んちとお前んちで。そこから少し離れた斜面の下には川があって大人たちから絶対に行くなって、危ないから近づくなって何度も言われてた」
「……」
「でも遊んでるうちに、俺が行こうって…」
「……」
「そう言って、莉音と一緒に行った。危ないから行くなって言われてんのに興味本位で行った」
「……」
「それで川に入って遊んでる内に、お前…流されたんだよ。だけど波も早くて俺は何も出来なかった」
「……」
「ただ見てただけで何も出来なかった。助けてって叫んでるお前を――…」
「違うよ、違う。そんな記憶、ないもん」
そんな記憶、何も知らない。
知らないし、聞いた事なんて一度もない。
ママだって、パパだって、お姉ちゃんだって、そんな事、何も言ってなかったもん。
だから違う。



