恋の訪れ


「お前が調子悪くなったらダメな事、知ってるから」

「え?」

「ここ」


そう言って瞼を隠してた先輩の腕があたしの耳へと延びる。

そのまま軽く左耳を引っ張られると、同時にあたしの瞳が大きくなった。


「…せん、ぱい?」

「今、ハッキリ聞こえてんの?俺の声」

「……」


スッと離されたその手と、その言葉に理解が出来なく、口が思うように動かない。

なんで知ってんの?昴先輩…

だからあたしは昴先輩の顔が見れなく、先輩に背を向けて寝ころんだ。


そう右耳を下にして。

なんとなくこれ以上、聞きたくなかったから。

だから敢えて、横向きになって聞こえる右耳をベッドに塞いだ。



「調子が悪くなったら聞こえなくなんの、それ俺の所為だから」


だけど、そんな昴先輩の声が今では左耳にでもちゃんと聞こえる。

少し眠ってた所為か、調子が良かったから。

別に聞きたくなんてない。


初めて知った事なのに何故か途轍もなく聞きたくなんてなかった。

だから。


「あたしの耳は生まれつきだよ?」


なんて言ってみた。

生まれつきじゃないってママから聞いていたけど、気が付けばそう言ってた。