恋の訪れ


「じゃあ、美人だったら心配いらないんですかね?」

「えぇっ!?」


驚いた声は美咲さんで、「莉音ちゃん?」なんて声が飛ぶ。


「あのね。お姉ちゃんは昔っから美人で、皆から絶対美人って言われるんです。でもあたしは違う。美人だったら何でもOKなんですかね?」

「えー…それは違うと思うけど」

「じゃあ、何でですかね?正直言って、お姉ちゃんが羨ましい…」

「あ、じゃ、じゃあさ、また葵に聞いてみるよ、ね?」


なんて言ってくる美咲さんは相当に、焦ってる感じで、翔さんも困り果てて、苦笑いしたまんまで何も言わなかった。

だって、本当にそうなんだもん。ムカつくけど、お姉ちゃんにずっと憧れてた。好き勝手にやってるお姉ちゃんが…

そんな二人から視線を外し、あたしはまだ口につけていなかったケーキを頬張った。


「わぁー、美味しい」


高級ケーキとでも言っていいほど生クリームと絡んだスポンジが柔らかくて、苺が物凄く甘い。

だから思わず頬が緩む。


「ねー、美味しいでしょ?」

「うん。凄く美味しいです」

「良かったー」


美味しいケーキを食べて、つい安らいでしまった。

だから、ここに来た事もすっかり忘れてしまった頃、ガチャっと聞こえた玄関の音とともに、


「あ、昴かな?」


なんて美咲さんの言葉に、顔色が悪くなったのが自分にでも分かった。


もう、昴先輩の事なんて忘れてた。

ここに来て、どれくらいの時間が経ったのかも分からないし、美咲さん達との会話に夢中になってた所為か、本当の目的すら忘れてた。