「昴、居るか分かんないけど、入ったら?」
美咲さんは目で玄関を見つめる。
「あ、いや…」
「せっかく来たんだし、おいでよ。丁度、ケーキ買ってきたんだ。一緒に食べない?」
″ほら、おいで″
付け加える様にして、手招きをする美咲さんに何故か着いて来てしまった。
さっさと帰れば良かったのに、来てしまった。
ケーキの一言で着いてきてしまったなんて、なんて馬鹿なんだろうか。
そのケーキの箱を見せて微笑む美咲さんの薬指にはゴージャスに輝く指輪が目に入り込む。
耳にも光ピアスにネックレス。
ほんとに綺麗だよ、この人。。。
「莉音ちゃん?」
その声にハッとした。
どうしよう。
もう帰れないよ…
「ただいまー」
美咲さんがヒールを脱ぎながら声を出し、振り返ってまた手招きをする。
その後に連れらって、リビングに足を踏み入れると、
「あー、おかえり。…え?」
驚いた表情で、見つめてくる人は、どう見たって昴先輩のパパ。
確か翔さんって人。
ダイニングテーブルの上でパソコンを開けて何かをしてた。
写真で見た事があるものの、最近では全く会ってないにしろ、今でも物凄い紳士的な人。
ムカつくけど、昴先輩のパパって、物凄い男前なんじゃん。
「あっ、莉音ちゃんだよ」
「あ、あぁ…葵ちゃんに似てるから分かった」
あたしか突然来た所為か、未だに驚いてる昴先輩のパパはあたしから目を離そうとはしなかった。ってか、葵ちゃんって、ママだし。
もう、なんなのこの関係…
「だよねー。昴に用事みたい」
「え、昴に?」
そう問いかけられて思わず苦笑いになる。案の定、翔さんは驚いてる。
別に、用事でもなんでもない。
むしろ、暴言を吐き捨てて帰ってやろうと思ったのに、こんな綺麗な美咲さんとダンディーなパパの前でなんて何も言えない。



