「おー、莉音?」
真理子と香澄先輩と別れて帰る途中、不意に聞こえた声に視線を向けると、口角を上げたヒロ君が居た。
「ヒロ君っ、」
「お前、大丈夫かー?倒れたって聞いたからビックリして」
「うん、大丈夫だよ」
ヒロくんの顔を見たらさっきまでの苦痛な時間の辛さも吹っ飛びました。なんてのは言えないけど。
「体調悪かったのかよ?」
「うーん…寝不足…?」
「寝不足ってなんかしてたのかよ」
「ううん。ただ寝られなかっただけ」
「ふーん…あ、そうだ。莉音、今日誕生日だろ?」
「え、あ、…うん」
そしてヒロ君は鞄の中からビニール袋を取り出した。
「はい。学校で渡そうって思ってたのに、莉音倒れたっつーから、渡しそびれて」
「えっ、いいの?」
受け取ったあたしの顔がパーッと明るくなったのが自分にでも分かる。
やだ、どうしよう。
ヒロ君に貰っちゃった。
「あぁ、いいよ。ってもたいしたもんじゃねーし。莉音、好きだろ、それ」
「あっ、クッキーだ」
中を覗けば、可愛いクマの形をした小さなクッキーが袋いっぱいに詰まっている。
以前、ヒロくんがくれてから大好きだったんだけど、人気すぎてなかなか買えなかったクッキー。
「ありがとう、ヒロ君っ、」
「そんなので喜ぶなよ」
「だって嬉しいもん」
「莉音は単純だなー…」
「何が?」
「何でも…」
クスクス笑うヒロ君から視線を外し、袋に入ったクッキーを眺める。
やっぱ今日は一番の最高な日なんだろうと思った。



