「…あれっ、莉音ちゃん?」
不意に聞こえた声にドクンと心臓が揺れた。
ドクドクとする心臓とともに視線を送ると、また目が見開いた。
「…美咲さん?」
そう言うと、美咲さんは微笑んだ。
なんでこんな所にって、思った。
ここは大学の正門前。
嫌だと思いたかった。
嫌でも嘘だと思いたかった。
ママの友達の美咲さんは、
やっぱ昴先輩の…
みんなは昴先輩のお母さんは物凄い綺麗な人って言ってた。
だって、目の前に居る美咲さんこそが物凄い綺麗な美人さんなんだもん。
「大丈夫?」
「え?」
我に返ったように意識がハッとする。
「ほら、この前、体調悪いって言ってたから」
「あぁ…大丈夫です」
「そう良かった。今帰り?」
「はい。美咲さんは?」
「ちょっと出掛けてて、戻って来たの」
「そうなんですか。…あの、美咲さんって何を教えてるんですか?」
「うん?あたしは英語だけど」
「英語…」
「どうかした?」
「あ、いえ。じゃ、帰ります…」
「え、あ、うん。気をつけてね」
「はい」
美咲さんに背を向けた途端、一気に身体の力が抜ける様に息を吐き出した。
やっぱ、そうなんだ。
英語…なんだ。



