桜が咲いたら

(そっ、か)






「うちの中学から桜ヶ丘行けんの、

多分武蔵くらいだぜ」






「偏差値、すごいらしいわよねぇ。


陽、あんたも頑張んなさいよ」






「はいはい。

テキトーなとこ受けてテキトーに受かるよ」






その日の晩ご飯は確かにあたしの大好きなグラタンだったし、

家族が全員揃っていることも、その時期にしては珍しいことだった。

楽しい夕飯になるはずだった。






だけどどうしたものか、もうそれ以上何も喉を通らなくて



コップに注いだ水を一口だけ飲むと、あたしは何も言わずに席を立った。





ダイニングではまだ兄の受験についての話し合いが為されていて、

話のテーマがあたしに関係のない事柄で良かったと、家族の声を遠くに聞きながら静かに思った。