「どこにも売っていない本だ」
「え」
ジョーダン・ベッフェルが執筆活動もしていることはもちろん知っていたし、家にも彼の本はいくつかあったと思う。
だけど、そのような名前の作品は聞いたことがなかった。
どこにも売っていない。
つまり、販売はされていない本。
奴はそう言うと、その長い右手をスッと俺の前に差し出した。
黒い本が、目の前にある。
「な、何…?」
「土産だ」
「土産…?そもそもあんたって…」
この時はまだ俺自身は彼を知らなかったが、梶先輩はすでに俺たちのことをわかっていたのだろうか。
“ちいさな双子のピアニスト”
偶然か、必然か。
そんな名前の本を、俺は彼から受け取った。