「ただいま帰りました」





中2の夏。



夜8時頃だった。生ぬるい昼間の風も、この時間帯になればそれとなく心地よいものには変わっていて。



ミンミンゼミの騒がしい鳴き声が季節を感じさせる。






俺は長袖のシャツの上に学校指定の夏用セーターを着て、家に帰って来た。



胸には“聖華音大付属中学”の刺繍が目立つ。





輝かしき未来の音楽家を養う、トップレベルの学校だ。



俺はその規律多き中学に、ほぼ強制的に通わされていた。






「お帰りなさいませ。稟様」




家のメイドが頭を下げて俺を出迎えた。