あたしは「うん」目を合わせずに相槌をうつ。
「コンクールとか出ても入賞するのは昔から総也ばかりで、両親や親戚や周りの人たちに褒められるのも総也だけだった。ある程度練習を重ねてバイオリンに慣れ始めてからは、俺も何とかそういうのに選ばれる機会も増えたけど」
総也だけが、自分の双子のお兄さんだけが、周りから注目を浴びる。
褒められて、「すごいね」って頭を撫でられて、屈託なく笑う総也をずっと隣で見続けていた稟は、そのうち……。
「そんな中で、両親が音楽コンクールで指揮部門とピアノ部門で最優秀賞を獲った時、4人であの写真を撮った。総也があんたに見せた、アルバムの写真」
「うん」
「俺、その頃ぐらいから総也の見てる先にはいつも演奏を指揮してる指揮者がいることを知って、本当はピアノよりもそっちにいきたいんだなって気付いたけど」
稟はすっとあたしに振り返って、薄く笑う。
その顔はいつも通りとても綺麗なのに、背筋がぞっとした。
「“ピアノ専攻のくせに、指揮者なんかに逃げるのかよ”って。総也がまた昔みたいに指揮の道でもその才能を輝かせるのが怖くて俺は皮肉たっぷりに言ったんだよね」
「え…」
「そしたら総也ね、“そんなわけねぇだろ”とか言って、無理して笑ってた。総也ってああ見えてかなり周りに気も使ってるし、周りのこともよく見てるから。俺が総也を見て感じてたこと、子どもながらに気付いてたみたいなんだよね」
稟がこんなに自分から言葉を発するのも、初めてだった。
だけどその響きは、すごく、悲しい。
