曲を弾き終わると、稟はピアノを静かに閉じた。
何となく、空虚な気持ちになる。
「違うなって、思ったでしょ」
「え?」
「総也のピアノと違うって。そう思ったでしょ?」
楽譜をファイルに閉ざして隣の楽譜棚に整理しながら稟が言う。
あたしは「えっと…」言葉を詰まらせた。
「俺、音楽の才能ないんだよね」
「え…?」
「俺もさ、小さい頃までは総也と一緒にピアノを習わされてた。でも、俺の才能に見切りをつけた両親が、途中でバイオリンに転向させた」
完全に棚に収納された楽譜ファイルを見つめて、稟は感情なく笑う。
乾ききった、そんな表情。
