そういうこと…?
あたしが稟を見やると、彼はあたしに一瞥をくれて部屋から離れていく。
「あ、ちょっと!稟っ」
それを急いで追いかければ、稟は立ち止まって「来れば?」とある部屋へ入って行った。
あ…。さっき総也がピアノを弾いていた部屋だ。
中にはさっきまで総也が演奏していた曲の楽譜が置いたままになっている。
稟の跡を追って部屋に入れば、稟がピアノの前の椅子に座って、楽譜を最初のページに戻していた。
もしかして……。
静かに目を閉じれば、ほら。やっぱり。
きこえてくる。
さっき、総也が肩を揺らして演奏していた、あの曲が。
だけど、何かが違うようだ。
そりゃもちろん、弾いている人物が違うのだから、それぞれに違いはあるだろうけど…。
稟のピアノは…、何だか……。
