「何でさゆがここに!?」



こんなに人間の目は見開くものなんだな、と思うほどに目を大きくして総也が見てる。




「あ、梶先輩に連れてきてもらった」


「棗に?今、棗来てんの?」


「うん。1階で松宮さんとお話してるよ」


「マジかよ」




久しぶりに会った総也は、前よりもちょっとだけ髪が長くなっている気がした。



いつも変わらず付けているピアスが、今日は耳にない。




「邪魔してごめん。まさかあたしも総也のお宅に連れて来られるとは思ってなかったけど…」


「あ、いや…。別に邪魔ってことはねぇんだけどよ」



ピアノを弾いている姿をあたしに見られたことが恥ずかしかったのか、金に近い茶色の髪を掻き上げて上を向く総也。




あんなに素敵な演奏ができるのに、どうして音楽の道を考えないのか、あたしにはわからなかった。



ど素人のあたしでもわかるくらい、才能は十分に開花しているはずなのに。




「総也、最近学校に来てなかったよね。皆、心配してたよ」


「あー…。まぁ、色々あってな」



困ったように目をそらす総也。


総也のこんな表情は初めて見た。



いつもへらへらと笑っている顔しか、見たことがなかったから。