「え?光が女装してる理由?」




その日の放課後、稟に言われて思い出したことを、校正会室で2人きりになった時に光に聞いてみた。





「うん。いやその、言えないなら無理に言わなくていいんだけどっ」


「いや、別に紗雪になら言ってもいいけど」




光は授業終わりに買ってきたショートケーキを口に含みながら、ぺろりと舌舐めずりする。





「光は1人っ子だったんだけど、光のママはちょっとうつ病もちでね」


「うん」


「ずっと女の子が欲しかったんだけど生まれた子は男の子でさ。光の両親は光がデキたのと同時に離婚してるから、母親が光を1人で育ててくれたんだけど」


「うん」




ショートケーキを一口ずつ口に運びながら、光は少しだけ悲しそうに笑って話す。




「光ね、手のかかる子どもだったんだぁ。ミルクはなかなか飲まないし、夜泣きもひどかったらしくて。育児に疲れ切って、光、1回捨てられかけてさぁ」


「え……」




いつも明るく振る舞っていた光の過去に、そんな暗いものがあったなんて、あたしは全く知らなかった。