あたしが稟を見ると、稟はあたしからさっと目をそらした。




「俺からは言えないけど。気になるならあいつに直接聞けばいいんじゃない」


「あたしなんかに教えてくれるわけないよ…」


「さぁね。ま、俺には関係ないけど」




稟はそれだけ言うと静かに立ち上がって、読みかけの本に枝折りを挟んだ。




「ま、そんなに悩みたいなら1人で悩めば。あーぁ。またあんたに読書場所とられちゃった。…そうそう。悩むのは構わないけど仕事は休まないでよね」



そして、そう言い残して屋上から出て行った。




稟……。



稟の総也にも似た背中を見送って、あたしは赤く染まった夕日を見つめた。





今、何時だろ……。


稟の言った通り、仕事には戻らなきゃ、図書室に残したままだよね…。




あたしはポケットからケータイを取り出そうと手を回した。



だけどそこにそれらしき感触はなくて。





「そうだ。さっき助けて貰った時に光があの男から奪い返してから、まだ受け取ってないんだっけ…」




あたしのケータイは、今も光が持っていることを思い出した。