不意に、甘ったるい声がした。
思い出してしまったからだろうか。
タイミングよく聞こえた声。
全身に鳥肌が立った。
聞き覚えのある、甘ったるい声に。
空耳だろうか。
だけど、藤井くん以外に人がいる気配がする。
音が聞こえる。
彼女じゃない。
こんなところにいるはずがない。
いなくなって4年も経つのに、会社に来る必要なんてどこにもない。
そう思うけど、どうしても彼女だって考えは消えない。
声が、呼び方が、
彼女なんだと言っている気がする。
もちろん、彼女みたいな話し方の人は、ここにもたくさんいる。
男性に媚を売る時に甘ったるい声をしている人は、たくさんいる。


